Kドラマの中のソウルではなく、ただ自分の町を見せたい理由

ソウルを見せたいと言うと、たいてい先に思い浮かぶ景色がいくつかある。Kドラマに出てくる漢江の夜景、華やかな江南の通り、景福宮と北村、聖水洞のカフェ、明洞や弘大。SNSでよく見るソウルも、だいたいそんな姿だ。きれいなカフェ、有名なグルメ、写真を撮りたくなる通り、旅行者なら一度は行ってみたい場所たち。そのソウルも、もちろんソウルだ。私もそういう景色が嫌いなわけではない。ただ、私が毎日出会っているソウルは、少し違う。

 

私のソウルは仏光川から始まる

私が住んでいる場所は、仏光川とDMC駅が出会うあたりにある。体が軽くてまめな人だったら、毎日散歩するのにかなりいい場所だと思う。問題は、私がそんなに身軽な人間ではないことだ。

あまり身軽ではない私の体は、スニーカーの底がすり減るほど歩き回ることを、そこまで喜んではくれない。仏光川へ行くことさえ、私には思ったより大きな意志がいる。実は家からそこまで遠いわけでもないのに、なぜか「行くぞ」と決めないと動けない。

年を重ねるほど、特に会社員として暮らしていると、一日の動線はどんどん単純になる。家から会社へ、会社からまた家へ。気づけば、自分が住んでいる都市まで、その二つの点の間だけに狭まっていくような気がする。

それでも自分をなくさないためには、たまにはぱっと開けた場所へ出ていかないといけない。心の健康のためにもそうだ。頭の中がごちゃごちゃしすぎる日や、体が重くて動きが鈍く感じる日は、特にそう思う。

ソウル仏光川の近くで乗る小さな町乗り自転車

だからこのあたりに引っ越してきて、いちばん最初に買ったものがある。20インチのタイヤがついた、町乗り用の小さな自転車だ。

三千里自転車。

子どものころは、その名前が少し古くさいと思っていた。あまりにも韓国的で、あまりにも昔からある名前のように感じた。でも不思議なことに、最近はその名前が嫌いではない。Kカルチャーという言葉を当たり前のように使う時代になったからだろうか。

「三千里錦繍江山」という言葉がある。韓国の土地を美しく呼ぶ、昔からの表現だ。三千里自転車という名前を聞くと、私はなぜかその言葉を思い出す。三千里の美しい国土をびゅんびゅん走る、そんな意味のようにも聞こえる。もちろん本当にそういう意味で付けられた名前なのかは、私も知らない。

それでも、なんとなく心に届く名前だ。

 

走れ走れ、そしてキーッ!

三千里を走り抜けそうな名前の小さなミニベロを、エレベーターに乗せて下へ降りる。そしてDMC駅のほう、仏光川へ下りる入口へ向かう。

入口に入ると、すぐに浅い下り坂が出てくる。案内板には、自転車から降りて押して歩くように、という内容が書かれている。正しい。降りて押していくべきだ。

 

DMC駅近くから仏光川へ下りる短い坂道

でも、いざその前に立つと、私の秩序感覚は少しぼやける。頭の中にはなぜか「走れ、走れ」みたいな声だけが残る。もちろん実際には、そんなに格好よく走っているわけでもない。古いブレーキをぎゅっと握り、車輪とブレーキゴムが触れ合う嫌な音を立てながら下っていく。長くても20メートルくらいだろうか。その短い下り坂の先には、屋外運動器具が並んでいる。韓国に初めて来た人が見たら、少し不思議に思うかもしれない。韓国には公園や散歩道のあちこちに、こういう屋外運動器具がある。誰が使うのだろうと思うけれど、実際に見ていると、いつも誰かしらが使っている。初めて見る外国人には、韓国が健康管理にかなり本気な国に見えるかもしれない。もちろん、これは半分冗談だ。私の自転車のブレーキ音にも、人々はあまり気にしない。みんな自分の運動をし、自分の速さで歩き、自分の時間を過ごしている。だから少し気まずさも減る。

それでも、毎回下るたびに思う。

次は必ず押して下りよう。

 

ただ水の流れに沿って行けばいい

そうして仏光川の道へ下りると、選択肢はとても単純になる。ただ水の流れに沿って進む。がんばって走る必要もないし、必ずどこかまで行かなければと思う必要もない。ただ漢江の方向へハンドルを向ければ、道は自然につながっていく。

DMC駅近くから始めると、漢江まではだいたい3.2kmほどだ。数字で見るとそこまで長い距離ではないのに、家の中にいるとそのくらいでもずいぶん遠く感じる。不思議だ。体は同じなのに、外に出ると距離の感じ方が少し変わる。

仏光川に沿って走っていると、ある瞬間、都市が少しゆるむ。DMC駅近くの建物や人、出勤と退勤の速度から、少しだけ離れてきたような気がする。まだソウルの中にいるのに、頭の中は少しだけ静かになる。

仏光川の自転車道から漢江方面へ続くソウルの道

ワールドカップ競技場の横を通って漢江まで行くと、城山大橋の下あたりに着くことができる。私はその地点が好きだ。何か特別にすごい景色だからというより、「ああ、ここまで来たな」という感じがある。体が大きく変わったわけでも、人生が急に整理されたわけでもないのに、それでも少しはよくなったような気分になる。

そこのコンビニで冷たい飲み物をひとつ買えばいい。正直、そのくらいで十分な日が多い。有名な食堂やおしゃれなカフェではなくても、漢江の風に当たりながら飲む冷たい飲み物ひとつが、その日の小さなごほうびになる。

こういうのが、線形の世界から少しだけ抜け出す気分なのかもしれない。家から会社までの最短距離だけを計算する2Dのような一日から、風の匂いがして、坂も感じられる3Dの時間へ、少しだけ移る感じ。

実はここからもう少しだけ動けば、望遠市場のほうへもつながっている。城山大橋の下で飲み物をひとつ飲んで戻ってもいいけれど、少し元気が残っている日なら望遠市場まで行ってもいい。そちらはまた別のソウルだ。水辺のソウルから、市場のソウルへ移っていくような感じがある。

 

ソウルがまだ慣れない友だちに、この道を教えたい

春の桜が咲く仏光川沿いの自転車ルート

もしソウルに初めて来た友だちが私の町に来たら、私はこの道を一緒に行ってみたい。

DMC駅の近くにタルンイを借りられる場所があるよ。タルンイはソウルで借りて乗れる公共自転車だよ。そこで一台借りて、仏光川に沿って漢江まで行ってみよう。疲れたら途中で戻ってもいいし。

 

ソウル旅行だからといって、いつも大きな場所だけに行かなければならないわけではない。もちろん景福宮にも行って、聖水洞のカフェにも行って、漢江の夜景も見られたらいい。でも一日くらいは、こんな道も悪くない。町に住む人が実際に体を動かし、考えを少し整理して、また家へ戻っていく道。

この道が誰かにとって特別なコースになるかはわからない。自転車が好きな人には短すぎるかもしれないし、歩くのが好きな人にはただの普通の散歩道かもしれない。城山大橋の下のコンビニまで行っても、何も感じない人もいるかもしれない。

それでも私には、この道がある。

家と会社の間で少しずつ狭くなる一日を、ほんの少しだけ広げてくれる道。体は相変わらず重いし、ブレーキの音は相変わらず聞きたくないし、次に行くときもたぶんまた、下り坂で押して下りない可能性が高いけれど。

それでも出かける。たまには出かけないといけない。

ソウルが慣れない誰かに、私が最初に見せたいソウルは、もしかするとこういう姿に近い。よく知られた景色より少し整っていなくて、もう少し生活にくっついている場所。

そのくらいのソウルも、私はけっこういいと思っている。

 

 

外国人でも借りやすいタルンイ自転車レンタル

この文章はエッセイに近いけれど、もしこの道を初めて行ってみたい人のために、小さな案内も残しておく。

アプリの画面や決済方法は、時間が経つと少し変わることがある。それでも基本の流れは難しくない。スマートフォンと決済できるカードがあれば、たいてい進められる。

タルンイ自転車レンタルの案内画面

1. タルンイアプリをインストールする

App StoreまたはGoogle Playで「タルンイ」または「Seoul Bike」と検索して、アプリをインストールする。

アプリを開くと、外国人利用者向けのForeignerメニューを見つけられる。韓国語に慣れていないなら、このメニューに入るほうが楽だと思う。

 

2. 利用券を購入する

アプリ下部のPurchase passメニューから利用券を購入する。

少しだけ乗ってみるなら、ふつうは1時間券で十分だ。DMC駅近くから仏光川に沿って漢江まで往復するくらいなら、ゆっくり動いてもそこまで負担は大きくない。

 

3. 近くの貸出所でQRコードをスキャンする

地図で近くの貸出所を探し、自転車についているQRコードをアプリでスキャンする。ロックが外れたら、すぐに乗ることができる。

DMC駅1番出口近くの194番曽山橋前タルンイ貸出所

地下鉄6号線デジタルメディアシティ(DMC)駅1番出口を出て、まっすぐ1分ほど歩くと、194番「曽山橋前」タルンイ貸出所が見える。ここで借りたあと、仏光川の自転車道へ下りればいい。

 

4. 仏光川に沿って漢江方面へ行く

 

道は単純で、仏光川の水の流れに沿って漢江方面へ進めばいい。長い距離ではないので、景色を見ながらゆっくり走れば15分前後で到着する。

DMC駅近くから漢江が見え、左側には城山大橋が見えてくる。望遠漢江公園や船着き場のあたりで漢江の風に当たりながら少し休み、冷たい飲み物やビールを一缶飲みつつ景色を眺めるのもいい。

夕方、日が沈むころに出発して、漢江の夕焼けと夜景を一緒に見るのがおすすめだ。そのくらいで十分だ。

 

5. 望遠市場のほうへ続けて行く

 

漢江と望遠洞をつなぐ望遠地下道
漢江と望遠洞をつなぐ、江辺北路の下を通る望遠地下道

 

私はたいていまた家のほうへ戻るけれど、旅行者ならここから望遠市場のほうへ続けて行ってもいい。漢江沿いから望遠地下道のほうへ出ると、望遠市場まで行ける。その話は次の記事でもう少し詳しく書いてみようと思う。